カテゴリー別アーカイブ: 月刊不動産より

スマートウエルネスシティ

IMG_0044

予測されていた高齢化社会の到来に向けて、国や自治体はこれまで、高齢者が健康でいられるようにと、個人の生活スタイルを変えて健康の増進を図ろうと政策努力をしてきました。運動や栄養などの必要な量は科学的に分かっているのですが、健康になろうと積極的に反応する人は全体の3割に過ぎません。残りの7割を動かすためには、何か別の手段が必要になるわけです。

一方で、都市構造が健康に与える影響のデータがあります。都市によっての車の依存度と糖尿病の発症数は正比例しているのです。

そうして考えてみると、単に個人の意識の造成に働き掛けるだけではダメで、どんな「まち」に住んでいるかも含め、総合的な視野から健康問題に取り組まないといけない。「まち」そのもののあり方の転換ですね。健康作りに無関心でも、知らずに歩いてしまえる「まち」をつくったら、健康な人が増えるのではないかというのがスマートウエルネスシティの発想の根源です。

ポイントは、関心があろうがなかろうが、自然に体を動かされてしまうということですね。

その場合の「自然に」には2つの側面があるように思います。一つは美的景観を良くして公園などを配置し自然に動いてしまうケース。もう一つは、物理的に歩くしかない状態にして、自然に歩かせてしまうということ。

愛知より東京の人のほうが歩くといったことは、東京では車移動が不便だし高くつくという原因のほかに公共交通の発達度という必然なのですね。車依存の「まち」をどう変えるかが、スマートウエルネスシティの大きなテーマです。

近い将来の住宅環境は駅直近が一番でなくて、歩ける範囲であれば距離があったほうがいい。そういった発想があれば、不動産に関しても新しいアンテナが立つわけですね。

それから健康度との関係で最近注目を集めている概念に、ソーシャルキャピタルがあります。「つながり」とか「きずな」に置き換えられますが、このソーシャルキャピタルが高い地域に住んでいる方は健康度が高いというデータがあるのです。どうしたらソーシャルキャピタルが上がるかということですが、これは「街なかでの偶然の出会いの多発化」だといわれます。車ではなく、歩いて移動することで人との出会いが増えることは社会参画の増大であり、そのことが健康の維持・向上にもつながるのです。

高血圧や高脂血症、メタボリックシンドロームに対し、歩くことがリスクの低下につながるのはもう常識でしょう。そこまで分かっているのだから、そこに住むことで歩いてしまう「まち」ができたら、住民の健康度は自然に向上するはずです。それは健康に無関心な7割の人々をも否応なしに巻き込んでしまう。スマートウエルネシティは「歩けるまち」であるが、言い換えると「歩くしかないまち」なのです。

新しいアプローチとして今注目を集めているスマートウエルネシティが掲げる方向性を理解すると、今までと違った観点から不動産の価値が見出せそうです。